これからの移動と新たな社会のあり方を、
数理の視点から構想する。
自動車産業では、「CASE (Connected-Autonomous-Shared-Electric)」や「MaaS(Mobility as a Service)」と呼ばれる技術革新によって、クルマの概念そのものが変わろうとしています。さらにコロナ禍で普及したテレワークやオンライン授業によって、物理的な移動だけでなく「情報が行き交うこと」もまたモビリティ(移動)の一形態であることを、私たちは再認識しました。
一方、数学・数理科学は、コンピュータの性能向上にともない、実社会のあらゆるところで応用されています。現代社会におけるすべてのモノや情報が動くシステムの根本には数理があるといっても過言ではありません。さらに数理には、「物事を抽象化し本質を捉える」という力も備わっています。世界的なプラットフォーマーはこのような「数理の力」にいち早く気づき、自社のビジネスの根幹に据えています。
クルマや移動そのものの概念が多様化してきているなか、未来のモビリティ社会の本質をつかみ、次世代の基盤をつくるうえで、数理の力は不可欠です。このような考えのもと、京都大学を中心とした世界的に活躍する数理研究者とトヨタ自動車が連携し、未来のモビリティ社会を構想するための拠点として、2020年4月に京都大学学際融合教育研究推進センターのもとに「モビリティ基盤数理研究ユニット」を設置しました。さらに、2023年3月にユニットを発展的に解消し、同年4月より連携を強化した共同研究の場として、京都大学オープンイノベーション機構のもと「モビリティ基盤数理研究ラボ」を設置し活動しています。
本ラボの使命
Driven by Math ——さらに人に、さらにしなやかに
私たちは、これからの社会では一人ひとり異なる価値観をより高い解像度で真摯に受け止め、寄り添うことが大切になると考えています。また、技術発展や自然災害など、多様な要因によって、環境の変化はさらに激しくなるとともに、予測困難になっていくことでしょう。
本ラボは、変化する社会の意識や状況を心に留めながら、モビリティの公平性、安全性、利便性、快適性の向上に寄与する研究を推進します。そして、これら研究成果がシステム、サービス、インフラとして社会実装されることによって、“環境の変化にしなやかに対応し一人ひとりが快適で在り続けられる社会の実現”をめざします。数学・数理科学の力によって、よりよいモビリティ、そして社会の創造を強力に牽引していくことこそが、本ラボの使命だと捉えています。
特徴
本ラボは、数理科学や情報学の基礎的分野の研究者がモビリティ・カンパニーであるトヨタ自動車の研究者と産学連携を行うことが大きな特徴です。私たちは、大学の基礎科学と日本が競争優位性をもつ産業とが、研究構想の段階から理論研究と技術開発が対等な立場で支えあうという新しい産学連携を推進したいと考えています。単に基礎研究の応用先を産業界に探すというものではなく、大学と産業界の強みをうまく組合せ、学内外の研究者ネットワークをフルに活用することで大学が新しい価値を創り出していきたいと思います。技術革新によって産業を支えてきた概念そのものが変わろうとするとき、何をすればいいかから考え、自由な発想で研究を行う大学の底力と強みがものをいいます。「卓越した知の創造を行い、自由と調和に基づく知を社会に伝える」という京都大学の基本理念とも合致します。
研究概要
モビリティの公平性、安全性、利便性、快適性に関わる新しい価値を創出するための「モビリティ基盤数理」の構築をめざし、基盤数理の3要素等を専門分野とする京都大学の研究者と、他大学やトヨタ自動車未来創生センターに所属する研究者による共同研究に取り組んでいます。
基盤数理の3要素
- 情報のフローに関する大量なデータの収集と解析能力に関する数理/データサイエンス
- 分散性、安全性、高速性、信頼性、弾力性、低コストといった従来型ではない特徴をもつシステムの制御と最適化
- 社会的公正性、価格の均衡、個人の行動誘因を損なうことなく実現するといった集団としてのルール決定に関するアルゴリズム